チャのヨコバイ抵抗性機構  defense mechanism of tea against leafhopper


 茶は日本をはじめ世界中で消費される代表的飲料です。そのため、チャ Camellia sinensis L. は産業上重要な植物であると言えます。チャの栽培における難点として害虫の防除が挙げられます。チャの害虫はチャノコカクモンハマキ Adoxophyes honmai Y. やクワシロカイガラムシ Pseudaulacaspis pentagona T.、ダニ類など多数知られていますが、最も厄介なのがチャノミドリヒメヨコバイ Empoasca onukii M. です。このヨコバイは 5 月から 10 月と長期に渡って全国的に被害をもたらし、年 6 回以上世代交代することが知られています。ヨコバイに吸われるとチャの若葉は褐変し、品質を大きく落としてしまいます。ヨコバイに対抗する方法として農薬の利用も考えられますが、昨今の環境負荷軽減の観点から抵抗性品種の活用も注目されるようになりました。枕崎野菜茶業研究拠点で選抜されたヨコバイ吸汁に耐性及び抗寄生性を持つチャ遺伝資源 3 系統 (枕Cd19, 枕Cd289, CA278)(※1) について、萬屋宏博士らと共同で抵抗性のメカニズムの解明を目指しています。

 抵抗性の解明にあたって、まず揮発性の化合物に着目しました。吸汁性昆虫と揮発性成分を用いた防御機構には報告があり、コミカンアブラムシ Toxoptera aurantii に吸汁されたチャの発する揮発性成分が、アブラムシの天敵である寄生蜂を誘引すると知られています(※2)。このようにヨコバイの吸汁によって、ヨコバイの嫌いな臭い物質や、ヨコバイの天敵の誘引物質が生合成されている可能性も考えられます。吸汁により誘導される揮発性成分を化学分析によって調べています。

 余談ですが、台湾では逆にヨコバイの吸汁を受けた茶葉を用いて東方美人と呼ばれる茶が作られています。東方美人は熟れた果実やはちみつのような香りのする烏龍茶です(※3)。栽培品種も発酵方法も日本の緑茶とは異なりますが興味深いですね。



【参考文献】
1.萬屋 宏,荻野暁子,チャ遺伝資源におけるチャノミドリヒメヨコバイの甘露排出量と甘露中のアミノ酸分析,昆蟲 (ニューシリーズ) 17 (1), 1-9 (2014).

2.Han, B.Y. and Chen, Z.M. Behavioral and electrophysiological responses of natural enemies to synomones from tea shoots and kairomones from tea. Journal of Chemical Ecology 28, 2203-2219 (2002).

3.Cho, J. Y. and Mizutani M. and Shimizu B et al., Chemical Profiling and Gene Expression Profiling during the Manufacturing Process of Taiwan Oolong Tea “Oriental Beauty”, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 71(6) 1476-1486 (2007).