酵母細胞壁多糖の生理活性 Physiological activity of polysaccharide derived from yeast cell wall
数多く存在する微生物に対し、植物が共生関係を構築するか、それとも防御応答をとるかを判断するにあたって、菌を正しく“識別”することは重要です。植物は病原菌を認識する際に、菌由来成分や菌表面に特徴的な多糖を手掛りとすることがわかってきました。例えばイネイモチ病菌 Magnaporthe grisea を媒介する糸状菌では、部分構造として、多糖の一種 chitin が知られています(※1)。
この多糖類に、植物の生育促進作用があることが最近の研究で明らかになってきました。
例えばイネでは、種子を chitosan 溶液に浸漬し、播種後に chitosan 溶液で灌水処理を行うことで収量が増加しました(※2)。また、海藻由来の多糖である alginate も同様の生理活性があり、IAA がその現象に関与する因子であると報告されています。それに加えて、IAA の誘導は生合成・輸送の促進、分解活性の抑制の観点で説明されています(※3)。
一方で、多糖によって防御応答が誘導され、耐病性が向上するという報告もあります。このように、多糖の植物に対する生理活性は、IAA のような植物ホルモンのみでは説明できず、植物体中の様々な挙動が複雑に作用し引き起こされている可能性がありますが、その作用機序は未だ明らかになっていません。
最近、ビール酵母の細胞壁由来の多糖 β-1,3/1,6-glucan(以下CW1)にも、植物の生育促進作用及び耐病性の向上効果があると指摘されています。例えば、栄養成長期から生殖成長期に移行する際に CW1 をイネに散布すると、無効分げつ・未登熟米の減少、収量の増加が圃場試験で観察されました。
現在、CW1のイネに対する生理活性を分析化学及び分子生物学的手法を用いて解明することを目的としています。
【参考文献】
1.Newman, M., Sundelin, T., Nielsen, J.T., Erbs, G. MAMP (microbe-associated molecular pattern) triggered immunity in plants. Front. Plant Sci., 4 : 139 (2013).
2.Boonlertnirun, S., Boonraung, C., Suvanasara, R. Application of Chitosan in Rice Production. Journal of Metals, Materials and Minerals. 18, 47-52 (2008).
3.Zhang, Y., Yin, H., Zhao, X., Wang, W., Du, Y., He, A., Sun, K. The promoting effect of alginate oligosaccharides on root development in Oryza sativa L. mediated by auxin signaling. Carbohydrate Polymers, 113, 446-454 (2014).