クチナシ防御物質と幼虫の解毒戦略 Detoxification strategy against Gardenia iridoids

 クチナシの葉や実にはイリドイドが含まれ、古くから漢方薬や色素として利用されてきました。サービナール(Cerbinal)のように抗菌活性(※1)を持つものも報告されており、クチナシは害虫や病原菌から身を守るための防御物質としてこれらの化合物を開発してきたと考えられます。ガーデノサイド(gardenoside)はそうしたイリドイドの一種で、植物中にはこのように配糖体の形で蓄積されています。虫に食われると、消化酵素の β-グルコシダーゼによってグルコース(Glc)が切り離され、右側の環が開環したジオール構造となって周囲のタンパク質を架橋することで、毒性が発現します。


 クチナシを食べる芋虫と言えばまず間違いなくオオスカシバ、というくらい、他の芋虫はクチナシを食べません。何でも食べる広食性のハスモンヨトウでも、クチナシの葉を生で与えると数日で生育が止まり、やがて死んでしまいます。



 実は一部の鱗翅目幼虫は、様々な植物に含まれるイリドイド類に対して共通した解毒機構を持っていることが農研機構の今野浩太郎博士らの研究でわかっていました(※2)。腸管内にアミノ酸(グリシンやアラニン、GABAのどれか1種類)を異常に多く持ち、イリドイドの結合部位をアミノ酸で塞ぐことでタンパク質を守るわけです。実験してみると、ハスモンヨトウもクチナシの葉を食べた時には、特定のアミノ酸を多量に作って応戦していることがわかりました。

......?
では何故、死んでしまうのでしょう?

その謎を現在解明しています。

 一方、クチナシを食べるオオスカシバは、このアミノ酸戦略を使っているのでしょうか?調べてみると、オオスカシバ幼虫腸内のアミノ酸はいずれも通常の値であることがわかりました。つまり、これまで知られていた方法とは異なる新しい戦略でガーデノサイドを克服しているわけです。その方法についても、現在鋭意研究を進めています。



【参考文献】
1.Ohashi et al., Cerbinal, a Pseudoazulene Iridoid, as a Potent Antifungal Compound Isolated from Gardenia jasminoides Ellis, Agricultural and Biological Chemistry 50(10), 2655-2657 (1986).

2.Konno et al., GABA, β-alanine and glycine in the digestive juice of privet-specialist insects: convergent adaptive traits against plant iridoids, J Chem Ecol 36(9), 983-91 (2010).